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2007年2月18日 (日)

授業 Humanside of Leading Technology (Vol.3)

1月にも紹介したとおり、この授業では主に事例を扱いながら話が進むのだけれども、紹介された事例で面白いものを4つ紹介しよう。今日はその1つ目。ちょっと長いけれども簡単な話なので と読めると思う。

20070217_1時は1898年、軍艦からの砲撃は非常に命中精度が悪かった。アメリカ海軍の調査によると敵艦への命中率はたったの1.3%程度だったのだ。その主な原因としては動く船の上で上下方向と左右方向を調整して、動く船を狙うことは非常に難しかったことが挙げられる。
それでもアメリカ海軍は世界最高の命中率を誇り、スペイン海軍との戦いにも勝利を収めた直後であった。命中精度の低さは海での戦闘が複雑であることが原因だと考えられていた。

同じ頃、イギリス海軍のスコット提督はふとしたことで自分の艦の或る砲撃手が他に比べて命中率がはるかに高いことに気づいた。その理由を調べたところ、彼は船の揺れを上手く吸収して上下方向の照準を合わせていることがわかった。
そこで提督は自分の船の砲台に上下の角度方向を維持する機械と狙いを定めるための望遠鏡を取り付けた。

この新技術によって、スコット提督の艦は命中率がなんと30倍も改善されたのだ。

これはイギリス海軍の元々の命中精度がいかに悪かったかを物語っているが、スコット提督はなぜか海軍全体に広めることに興味を持たなかった。しかし南シナ海の警備についていた若いアメリカ海軍将校のシム大尉にこの新技術について教えたのだ。
衝撃を受けたシム大尉は、この技術によってもたらされる効果ともたらされる命中精度についてのデータを精力的に集めて本国ワシントンDCの海軍本部に詳細なレポートを送った。もちろん本国からは前向きな返答がすぐに来るものだと信じて。

しかし本部は彼の報告を単に無視した。
イギリス海軍の命中精度がいかに悪かったとはいえ、そんなに上手くいくはずがないとして信じなかったのだ。精度が悪いのは砲撃手の腕と訓練に問題があると信じられていた。そうでなくともアメリカ海軍は世界一、なぜそんなことを考えなければならないのか理解する者は誰1人いなかった。

これに怒ったシム大尉はさらに多くのデータを集め、さらに多くの幹部や関係者にレポートを送るようになっていった。そしてひたすら無視された。しかしシム大尉の行動はエスカレートして、この技術を無視する幹部への批判にあふれたレポートまでそこかしこに送られるようになり、海軍の中でも大きな問題となっていった。

とうとう海軍は、しぶりながらも彼の技術を実際に試験した。しかし試験機は艦上ではなく、船の揺れの影響を受けることのない陸地で行われ、当然のことながら現状の砲台との優位な差は認められるものではないという結果が得られた。
ここにきてシム大尉の立場は非常に危ういものになったのだ。軍のしきたりを無視した上に何の成果も得られなかったと判断された彼の行動は海軍の汚点となろうとしていた。

シム大尉は最後の賭に出た。
彼は最高権限者であるルーズベルト大統領にレポートを直接送ったのだ。軍の責任者としての経験を持っていた大統領は、驚いたことに彼のレポートを読み、この技術の可能性に気がついた。
そしてなんと、大統領は軍の慣習や手続きを全て無視してシム大尉に砲撃の訓練と全ての軍艦の照準改善を実行する職務に就かせたのだった。


さて、ハッピーエンドに見える話だけれどもシム大尉は非常に危ない橋を渡ったことは間違いない。ここから得られる教訓は何だろうか。僕の経験からすると、この話は決して昔の話として笑い飛ばせるものではなく、エンジニアとして行動するときに常々考えなければならない問題を含んでいる。僕が思うには・・・・

  • 人は危機が目の前に来ないと対策を取ろうとしないも傾向があること
  • 自分の目で確かめない限り信じようとはしない傾向があること
  • 面倒なことはできるだけ手軽に「やったことにしてしまう」傾向があること
  • 技術者の論理と管理者の論理は往々にして全く異なるのでお互いを理解しないこと

そう、シム大尉は本国にレポートを送ることだけを続けるだけではなく、できることならば責任者の誰かをスコット提督に会わせるべきだったのだ。
もっとも、当時アメリカからイギリスへ行くだけでも膨大な費用がかかるのは間違いないので非常に難しいことだったのかもしれないけれど。

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コメント

>いまさん
僕は、多くの海軍幹部が改善の可能性に気づいていた人も少なからずいるのではないかと、密かに思っています。でも自分のポジションをかけるほどの重要性と必要性を認識していなかったのは間違いないですけどね。

大統領と幹部の差は何だったのか、それは僕にも謎ですが、面子の問題もあったのかもしれませんね。
僕の推論では立場の違いなんだろうなと思っています。つまりどういう心理的、立場的な偏りを持ってシム大尉のレポートを読んだか、です。
軍幹部にとってはアメリカ海軍が世界一である限り、一介の将校の提案を真に受けて多額の投資をする必要が無かったのかもしれません。少なくとも今は上手くいってるしリスクは不要だということで。

面白いですね~。いろいろ考える必要がありそうですが、少しだけ感想を。

問題はルーズベルトが気づいたこの技術の可能性に海軍幹部は気づかなかったことだと思いました。

軍の責任者としての経験があっても気づく人(大統領)と気づかない人(幹部)がいるってことですね。その差って何なんだろうかと思います。

個人のスキルの問題なのか、キャリアの問題なのか。個人的には、幹部には海軍での現場経験が乏しかった、遠ざかって久しかった、へんな面子にこだわっていたなどが原因かと思いました。

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