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2007年5月 5日 (土)

Engineering Risk Benefit Analysis

20070504_riskbenefitanalysis スペースシャトルの事故発生確率はNASAの中でも1/50から1/1,000,000まで意見が幅広く分かれていたという話は有名だけれども実際にリスクを見積もるのはコストを見積もるのと同じくらい非常に難しい。
もちろん現実的にはリスクがゼロになるなんてことはあり得ないわけで、最終的には見込める利益と比較して、そのリスクを受け入れるかどうか人間が判断するしかない。

僕が受けていた授業"Engineering Risk Benefit Analysis"は、じゃぁそのリスクと見込まれる利益についてどう予測するかについて考える授業だ。今期から始まった事もあってか大盛況だった。そのため250人ほども入る教室からあぶれた人用に、構内でのビデオ講義がなされる始末。
担当のGeorge Apostlakis教授はこの分野の発展に寄与したとしてアメリカのAcademy of Scienceの会員になっている。また、NASAのリスク分析についてもかなり貢献しているようだ。この資料の多くは彼が書いているんじゃないかと思う。

 

前置きが長くなったけれども、結局リスクと利益を考えるための基本は、想定される結果が与える利益や不利益、それぞれの発生確率を統計論や確率論(標準分布とか二項分布とかベイズ理論とか)を使って見積もることになる。

さらに利益や不利益は2倍になったからと言って、リスクも2倍にしていいかというとそうでもないのであらかじめ規定しておいた満足度で評価することになる。
つまり、1億円の宝くじに1万円払ってもいいと思っている人が、必ずしも1兆円の宝くじに1億円払ってもいいと思うわけでもないということだ。ましてや期待される利益(償金×確率)が同じなら普通の人はその1兆円の宝くじなんて買わない。

で、こういう話をすると必ず出てくるのは、「その発生確率とか満足度とかってどうやって具体的に決めるの?」ということ。
結論を簡単に言うと過去の状況を細かく観察して、そのデータから出すしかない。そのためにはすごく地道な仕事を長いことかけてやらないといけないので非常にコストがかかる。もちろん新しい物に対しては、過去の似た物から得たデータで類推することもあるけれどもその場合は当然不確かさが残る。ましてや何もデータがないのに予測値が出てきているのは勘でしかない。

 

と言うわけで、教授がさらっと言った言葉がエンジニアとしての僕には非常にショックだったし腑に落ちる物でもあった。

こういった確率論のみに頼った意志決定はしてはいけない。人が見積もった確率を論理的に説明できるわけではないし、必ず不確かさが潜んでいる。さらに対象となる物を取り巻く環境は常々変わっている中で、過去のデータが示していることが継続して起こらない事も多い(たとえば最初は故障が多くてもしばらくすると安定し、寿命が近づくとまた故障が多くなるバスタブカーブとか)。
しかし、リスク要素としてどの項目を重要視するか、少し値が変わっただけで結果に大きく影響するのはどこか(感度解析ですね)、何を重要視してどの程度まで期待したり許容するか、各関係者が考えている事を白日の下にさらし議論を発展させるのには非常に有効だ。
そして、最終的にはこの理論と議論の結果を持って、人が「どうしたいか」判断するしかない。

数式をいじくり回す宿題は大変だったけれども、だからこそこの言葉が重く響いたのかもしれない。

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コメント

>130sさん
質問ありがとうございます。

コストは「必要な金額」という絶対的な指標で明確に表せますが、リスクは表現の仕方が多様(コストリスク、スケジュールリスク、技術リスク、などなど)で、さらに目に見えないので曖昧さが残ってしまいがちですのでコスト見積もりの方が簡単に思われるのはごく自然なことだと思います。

ここで私が問題にしているのは、見積もりと結果がどれだけ一致するか、つまり「見積もりがどれだけ正確か」にあります。

本当は、コストもリスクと同じように確率分布で表現されるべきものだと思うのですが、マージンを付与して、これくらいにはまず間違いなく収まるという値をコストとして一点見積もりする場合が多いのではないでしょうか。

違う観点から言うと、リスクとして認識している事柄が顕在化すると、それはコストに跳ね返ってくるわけですから、リスクを正しく見積もることはプロジェクトのコストを正しく見積もることと同じなのだと思っています。

遅いコメントで,
しかも本題と無関係ですみません.

>実際にリスクを見積もるのはコストを見積もるのと同じくらい非常に難しい。

コスト見積りは, リスク見積りと同じと言えるくらい難しいのでしょうか?

情報システム構築しか専門的に関わったことがないのですが, 少なくともコスト(Man-hour, Lead-time, Budget)は見積もることはできていました.
勉強不足ですみません.

>いまさん
「主観」が「主勘」じゃなければいいんですが(笑)
いずれにせよ、皆でその数字の根拠や前提を知っていると、数字自体を突き詰めていくよりもよっぽど共有情報として有用だと思います。

講師のお言葉ごもっともですね。
衛星開発では、probabilityとseveralityとのマトリクスでリスクを評価しているのをよく見ます。まぁ、かなり主観が入るのですが、リスクに関して関係者である程度の共通認識ができることもその利点だと思います。

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