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2007年12月23日 (日)

IridiumとGlobalStar(その2)

20071222_1_2 IridiumとGlobalStar、どちらのプロジェクトも振り返ってみると「技術的には大成功を収めたが商売的には大失敗」だったことが見て取れる。これが前回紹介した元上級副社長の

「GlobalStarプロジェクトを振り返ると、技術的なチャレンジが20%、政治、規制、ビジネス提携、金融、文化などの非技術的なチャレンジが80%を占めていた。」

という言葉に表れていると考えていいと思う。Iridiumは1990年にプロジェクトの立ち上げを宣言し、そこからメーカー選定、周波数の獲得などに動いたにもかかわらず、最初の衛星がLockheed社から納入されたのは1996年(打ち上げられたのは97年)、そしてサービス開始に必要な最初の66機全部が失敗無く打ち上げられたのが1998年、もちろんその間に地上の運用システムも完成している。

政府発注の衛星なら18ヶ月が普通と言ってもいい衛星の最終組み立てにかかった時間は1機あたり28日。4.5日に1機ずつ納入され、打ち上げはアメリカ、ロシア、中国のロケットを駆使して最短打ち上げ間隔は2週間。
大量生産品と一品生産品、極力簡素化した小型通信衛星と極力ミッションを詰め込んだ上にリスクを極度に嫌う政府開発衛星(極端ですが)との違いを考えても、かなりのスピードで開発されていることが分かる。とにかくこれまでの人工衛星開発から考えると、ものすごいスピードでシステムが構築されている。

GlobalStarは1991年にプロジェクトが始動して、電波免許交付が1995年、最初の衛星打ち上げが7年後の1998年でシステムの完成が200年始めなのでこちらもかなりのスピードで52機(予備4機含む)の衛星とその運用システムを完成させている。

システムの開発が簡単に済んだとは決して思わないし、苦労も沢山あったはずだ。特にアーキテクチャー設計においてはIridiumとGlobalStarの違いが如実に見えて(エンジニアには)面白い。

Iridiumが66機(当初計画では77機)の衛星全てに衛星間通信の機能を持たせて地上局の数を8局に抑えたのに対して、GlobalStarは48機の衛星は単純に地上局と電話をつなぐだけ(ベントパイプ)にして地上局を33局開設している。衛星と地上どちらに機能を割り振るか、通話可能な地域とサービスの質をどれだけ維持するか(事実GlobalStarでは最寄りの地上局からあまりに離れると通話できなくなる)、サービス開始までの時間とコスト、メンテナンスコスト、複雑なトレードオフに相当な議論と決断が有ったはずだ。

さて、いずれにせよ技術的な課題は大きなエピソードもなくクリアすることができているので問題の非技術的な課題の話に入ろう。

どちらの事業においても最初に直面した大きな壁は電波利用の許可だった。人工衛星で利用する電波の割り当ては国連の一部であるITUが仕切っているのでそこで許可をもらえば良いのだが、ラジオやテレビ、携帯電話などの無線通信事業は各国の政府機関が国内での事業許可を出している。アメリカならFCCであり日本なら総務省だ。なので事業を展開する予定の世界中の全国家と交渉をしなくてはならないという気が遠くなるような話なのだ。

民主主義国家もあれば共産主義国家もある。王国もあれば共和国もある。地元企業との合弁体制でしか事業を認めない場合もあるだろうし、高い税金や免許交付金を払わなければならない場合も有るだろう。政治体制、文化、モラルなどあらゆる面で異なる相手との交渉は物理法則を相手にするよりは遙かに多難だったと言われても納得できる。

それにこれだけ巨大な通信システムを開発するためには一つのプロジェクトチームでは不可能である。当然ながら衛星システムプロジェクト、地上通信システムプロジェクト、販売・カスタマーサービスシステムプロジェクト、資金調達・運営プロジェクトなど、いくつかに分けてみてもそれぞれが巨大なプロジェクトを状況に応じた変更を加えながら一つにまとめていくことは「関係者が密に話し合って何となく決めていく」80年代に製造業界で世界を席巻した日本の伝統的なプロジェクトマネジメント手法ではまず無理だ。

言葉の定義を始め、開発プロセスや意志決定プロセスの標準化、評価基準と計測方法の確立、権限の明確化と積極的な委譲などプロジェクトマネジメントやシステムズエンジニアリングを活用すること無しにはプロジェクトをコントロールすることはほぼ不可能だし、活用しても難しいと思う。

そしてこれらを全てやりきって全世界共通のサービス体制を完成させてしまったMotorolaとQualcomという2つのアメリカ企業の凄さを感じずにはいられない。

しかし、実際サービスを提供し始めて見るとIridiumだけで2百万人と予想されていたユーザーはどこかに消え失せ、実際の契約者数は5万人にしか達しなかった。予想のたったの2.5%である。なぜこんなことになってしまったのか。

(その3へつづく)
(写真はMotorola製のIridium用電話機9500型。重さ450g、本体だけで長さ19cm、動作温度は-30℃~60℃)

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